ITにお金を使うのは、もうおやめなさい ハーバード・ビジネススクール・プレス
 |
人気ランキング : 5,114位
定価 : ¥ 1,785
販売元 : ランダムハウス講談社
発売日 : 2005-04-07 |
 |
ITに疑問を呈した貴重な一冊 |
私はIT関係の仕事に従事していますが、IT関連の雑誌や書籍はどうしてもITに好意的な意見(ITで業務改革等々)が多いものです。これは当然と言えば当然で、普通は自分たちの仕事を蔑むようなことはしません。それなので、この本のようにITを無用と言い切る文章を見ると、心理的な反発を覚えるものの、大変新鮮なものです。
この本の言うとおり、確かにITはコモディティでしょう。業務用システムはERPパッケージ、サプライチェーンはSCPパッケージ、マーケティングはCRMパッケージ、情報系システムはEIPやBIなど、企業が通常必要とする情報インフラは、安価で良質なITツールが簡単に手に入ります。その意味では電気や鉄道と同じかもしれません。
ただ、ITツールは使うのが難しいものです。市販のコモディティとなったソフトを社内に導入して即使えるかって、そんなことはなく、多くの会社がERP導入などで失敗しています。情報システムの場合、テクノロジーそのものよりも、人間系・業務系の困難の方が大きいので、技術的に簡単でも別の壁によって挫折してしまいます。言うならば、ITツールそのものはコモディティでも、それによって実現される業務システムやビジネスプロセスはコモディティではありえないといったところです。
個人的な意見はさておき、この本の価値は、ITの価値に疑問を呈した数少ない本であるということです。しかも、それなりの説得力を持って書かれています。特に深い理由もなくITの価値を信じている人にお勧めの一冊です。
 |
「ITこそ戦略である」というドグマ |
『Harvard Business Review』誌2003/5月号に掲載された論文「IT Doesn't Matter」
http://harvardbusinessonline.hbsp.harvard.edu/b01/en/common/item_detail.jhtml?id=R0305B
(日本版 2004/3月号「もはやITに戦略的価値はない」 http://www.dhbr.net/magazine/article/200403_a01.html)は、業界に大きな論争を巻き起こしました。主張は単純で、「ITは大きな顔をして金を巻き上げているが、もはや電力や道路のようなインフラ、コモディティであり、戦略的差別化には貢献しない」というもの。
その論文と反論、再反論をまとめたのが本書です。原題は"DOES IT MATTER?"とやや軟調になっていますが、一つの見方として適切であって、大論争をするようなトンデモ話ではないと思います。
実際、日経BP『動かないコンピュータ』が象徴するように、何十億かけたシステムが野ざらしになったり、システムのお守りと本業とどっちがメインかわからなくなるような、「ITこそ戦略である」というドグマが産んだ悲劇は枚挙にいとまがありません。
当たり前ですが、ITは道具です。しかもメトカーフの法則によってユーザーが多いほど価値が上がる、まさにコモディティ化に適した道具です。
電話やコピー機同様、上手に活かして差別化戦略に"使えば"いいのです。カー氏も、別に「いらない」とも「革命がなかった」とも言っていません。「自分に必要なものを適切なコストで買って使う頭を持ちなさい」というシンプルな話なのだと、思います。
買う方も売る方も、一度考えておきたい視点を与えてくれる良書。
それにしても、「CIO」は「電力担当副社長」と同じように消えてなくなるのでしょうか?
 |
ITに湯水のようにお金をかけてもリターンがあるわけではありません |
原題「DOES IT MATTER? (ITは重要なんですか?)」
ITに湯水のようにお金をかけてもリターンがあるわけではありませんよ、と警鐘を鳴らしたハーバード・ビジネス・レビューの論文を書籍化した。
あのマイクロソフトのパルマー氏からも激烈な反論も出てきたほど、インパクトのあったそうだ。
多分誰しもが心にあったものを論理立てて、過去の産業革命と比較しながら、ITはすでにガス水道電気と同じインフラである。ITを利用するだけでビジネスで優位に立てる時代は20年以上前に終わりを告げていると説明している。特にインターネットの爆発的な広がりの中で業績を伸ばしたDELLを引き合いに出し、DELLは決して最新の技術を使って成功を収めたのではないことを説明している。
IT関係者には特にお勧めする本です。是非一読あれ。
特に
「支出を抑える」(闇雲にIT投資しない、高い最先端は必要ない、十分にいきわたった汎用的な技術で十分)
「先頭に立たずに、後からついて行く」(一番は何せ高くつく、マイクロソフトはいつも人まねで高収益を上げているいい例だね)
「革新はリスクが小さいときに行う」(機器やソフトの変更は大きな変化が終わってから行うのが吉)
「チャンスより脆弱性に注目する」(情報漏えいやウイルスの被害を受ける確立はチャンスより断然大きく、かつ甚大な被害を受けることが多い)
などの言葉はITに従事するものとして常日頃から頭に叩き込んでおく必要があると思う。
 |
読むとスッキリ。あぁそうか!と思える本 |
なんとなく漠然と疑問に思っていたことに、「疑問」としての明解な形を与えた上で、説得的な答えを提示してくれる本を良書というのだと思います。本書は、「ITってそんなに万能なの?」という素朴な疑問に対して「いいえ、少なくとも企業経営上はそんなことありません」と答えてくれています。もちろん、本書の議論が絶対の正解であるという保証はありませんが、豊富な例証によって十分に納得させてくれます。
例えば、電力が普及し始めた「20世紀初頭には「企業と産業のあり方を変える」という電力の役割を認識した大企業が、こぞって「電力担当副社長」を設けた」(p50)というエピソードには思わずニヤリとさせられます。このような具体的で印象的な例証が、本書の主張を堅牢なものにしています。「ITはインフラである」というのは、明々白々たる事実ですし。
ただし書名は「ITにお金を使うことを(全面的に)止めなさい」と言っているように読めるので、ちょっと問題ですね。筆者が主張しているのは、「IT投資は今までより慎重であるべき」というごく穏当なことなのですから。こんな良い本がちょっとキワモノっぽく扱われそうで、可哀相です。
 |
イノヴェーションの本質を喝破 |
この本の偉大な所は、IT革命を、過去の産業革命を牽引し一世を風靡した蒸気機関と鉄道、電信、電気、等の様に、世界の経済社会を地球規模で革新した「共有化・標準化されたインフラ」と同列の、即ち、「完璧なまでのコモディティ」であると喝破していることである。
ハードはコモディティと認めても、ソフトの発展性と複雑性に幻惑されて、その将来に夢と幻想を抱く者にはソフトウエアのコモディティ性を容認できないが、これに対して著者は丁寧に反論している。
ドラッカーも、ITを第3次産業革命の核と認めるがインターネット等には幻想を抱いていない。マイクロソフト訴訟で、既に過去の会社に何故騒ぐのかと言った。
本書の最大の論点は、ITを、産業革命の牽引力と区別し、経営問題として「企業レベル」で分析して居ること。
差別化と企業価値を高める「占有技術」と、単独利用より共有による価値の方が高い「インフラ技術」とに分けて分析し、IT技術を、初期には占有技術的要素があり創業者利潤を得た企業もあるが、その後、経営に対するIT導入効果は確認できず、今後、益々コモディティ化が進展すれば、IT投資が企業の優位性確保の手段にはならない、と主張。
今後の経営は、最小限度標準的なIT技術の導入は必要だが、ITを「戦略資産」ではなく「コモディティ」と考えることが大切で、コストの削減は勿論のこと、CIOの消滅が理想だと言う。
最新の「ハーバード・B・R(日本版)」に、シュンペーターのイノヴェーションの定義が掲載されているが、今更と言うか。本書は、イノヴェーション論としても貴重なテキストである。